8月3日告示、10日投開票の和歌山市長選。防災対策、地域活性、観光振興は−。県都として牽引(けんいん)役を担う市の課題を探った。
「さびしいなあ」。経営する喫茶店2階で休日の商店街を見下ろしながら、成瀬鋼さん(43)がつぶやいた。かつて、人にぶつからずには歩けないほどのにぎわいを誇った和歌山市中心部の「ぶらくり丁商店街」。成瀬さんは、同商店街協同組合の理事長を務める。
「高齢化が進んで老舗が店をたたんでいる。消費税増税などもあり、今年に入って3店ほど閉店になりました」と表情を曇らせた。
この一帯は大学や大型百貨店などもあったが、和歌山大が昭和60年に紀ノ川北側に移転し、平成10年には県立医大も紀三井寺へ。同年には大丸百貨店、13年に丸正百貨店が店を閉めた。そして8月末、高島屋も約40年の歴史に幕を下ろす。商店街だけが取り残されるような状況に、「ショックです」と成瀬さんは話した。
市中心部の人口も減少している。本町地区では昭和57年に約6千人だったが、今年7月現在では約3400人となった。
一方で、郊外は中心部に比べて地価が安いこともあって、イオンモール和歌山など大型商業施設が進出。子育て世帯も移り住むなど、明暗が分かれたようにも見える。
「歩行者・自転車通行量2万6500人」(平成23年度)「中心市街地の居住人口1万1680人」。市が19年に策定した「中心市街地活性化計画」では、国と県の補助も含めて約23億円が投入された。丸正百貨店跡には複合商業施設「フォルテワジマ」が開業するなど成果はあったが、掲げた目標には届かなかった。 【和歌山市長選の課題(上)】
【和歌山市長選の課題(上)】
取り残される中心商店街、住民も大型商業施設も大学も郊外に流出した…地方の空洞化はどうすれば歯止めがかかるのか 2014.8.2 18:00 (2/2ページ)[選挙]その反省を生かして25年度に定めたのが「和歌山市まちなか再生計画」。市の公募によって市民延べ600人が参加したセミナーで意見を吸い上げ、市民目線の町作りに向けた提案をまとめた。市都市整備課の中野昌則企画員は「市街地衰退の背景には人口減少と高齢化がある。まちなかへの居住を進めたい」と話す。
ぶらくり丁商店街も、手をこまねいているわけではない。6月には協同組合の組合員らによる意見交換会が開かれた。
「ぶらくり丁のために何かしなくては。他の商売への転換を考えている」「和歌山一の商店街が、来年の国体で今の状況だと恥ずかしい」。集まった15人はさまざまな意見を出しあった。「再開発はいいと思うが、権利や建設関係がはっきりしてから判断したい」と慎重な声もあったが、現状への危機感がにじみ出る。商店街で将来の方向性のイメージを共有し、来夏には青写真を示したいという。
遊休不動産の再活用を探る市の「リノベーションスクール」事業に、若者が積極的に参加するなど明るい兆しも見える。「今が転換期なのかもしれない。空き店舗に入る新しい店も増えている」と成瀬さんは期待をこめる。
中心市街地の現状について和歌山社会経済研究所の木下雅夫常務理事は「いろいろ取り組まれてきたが、なかなか前に進まない。その原因を追究する場を作り、将来のビジョンを共有して『みんなで協力する』という状態を作らなければ続かない」と指摘した。