株主・経営陣守るため国民に負担転嫁
東京電力の福島第一原発は2011年の爆発事故から8年目を迎えた。スリーマイル島原発の炉心溶融事故(1979年)、チェルノブイリ原発の核暴走事故(1986年)を上回る、史上最悪の原発事故として世界に衝撃を与えた。事故から8年を経過する今日もなお、炉心溶融を起こした1~3号機の事故の収束は先が見えないばかりか、廃炉についても技術面でも費用の面でもまったく見当もつかないというのが現状だ。にもかかわらず安倍首相は「福島はコントロールされている」といい「復興五輪」などといって、東京オリンピック誘致のお祭り騒ぎの道具に利用し、他方ではまるで福島原発事故などなかったかのように原発再稼働や原発輸出を煽っている。8年目を迎えた福島原発の現状について見てみた。
東日本大震災が発生した2011年3月11日、福島第一原発では1~3号機が運転中で、4~6号機が定期検査中だった。1~3号機は地震で自動停止し、さらに地震による停電で外部電源を失い、続く津波で地下に設置されていた非常用ディーゼル発電機も機能喪失し、全電源喪失に陥った。
核燃料は運転を停止しても膨大な崩壊熱を発する。冷却のための注水を続けなければ原子炉内は空だきとなり、核燃料はみずからの熱で溶け出す。1、2、3号機ともに核燃料が原子炉圧力容器の底に落ちる炉心溶融(メルトダウン)を起こした。さらに圧力容器を突き抜け、外側にある原子炉格納容器に漏れ出すメルトスルーに至った。
メルトダウンの影響で水素が大量発生し、原子炉建屋やタービン建屋内部に水素ガスが充満し、1、3、4号機の建屋が爆発した。4号機は定期点検中であったが、3号機とつながった配管を通じて水素ガスが充満した可能性が高い。2号機は水素爆発は免れたが、建屋のなかに放射性物質が充満したままになった。
水素爆発によって大気中に大量の放射性物質が放出され、政府は福島原発から半径20㌔圏内を警戒区域、20㌔㍍以遠の放射線量の高い地域を「計画的避難区域」として避難対象区域に指定した。放射性物質の大量放出により除染がよぎなくされた。除染による汚染土は2200立方㍍にものぼると推計されている。環境省は汚染土を公共事業や農地造成に再利用する方針を出しているが、住民の反対にあい実行できずにいる。
資源エネルギー庁は今年の3月20日、事故から8年たった福島原発の現状について「原子炉内で燃料が溶け固まった“燃料デブリ”は継続的な注水により、安定した状態を維持している」と「安定した状態」にあることを強調している。ではなぜ「継続的な注水」が必要なのか。
ウランの核分裂反応は止まっても、その反応によって新たに生じた多くの放射性物質が崩壊を続けており、この崩壊熱だけでも溶け落ちた燃料が容器を溶かして穴を開けることもある。また、ウランなどの核燃料はある一定の条件のもとでは「再臨界」を起こして核分裂の連鎖反応が始まる。専門家は「まだ予断を許さない」として、事故は続いており、収束のメドもたっていないことを指摘している。
福島第一原発で溶けた核燃料は1号機で69㌧、2号機で94㌧、3号機で94㌧、合計257㌧だ【表①参照】。核燃料を含む燃料デブリ(金属やコンクリートなども含む)は合計で880㌧と推計されている。スリーマイル島原発で溶けた核燃料は62㌧、チェルノブイリでは190㌧で、事故処理の困難さは比較にならない。
廃炉作業で最大の問題になるのは、溶け落ちた核燃料をとり出すことだが、高濃度の放射線が充満するなかでどこにどのように核燃料が存在しているのかさえ現段階ではつかみきれていない。
たとえば今年2月に2号機の格納容器でロボットによる調査をおこなったところ、そこにあったデブリは核燃料ではなく、制御棒やこれを包むチャネルボックスであった。核燃料など高い放射線を放つデブリは原子炉内にある可能性が高いと推定された。1、3号機でもロボットによる調査をおこなっているが、調査が進めば進むほど核燃料のとり出しの困難性が深まるばかりだ。
事故から8年が過ぎ、廃炉処理に何年かかるのか、費用はどこまで高騰するのかが各方面で問題になっている。
スリーマイル島原発は事故から今年で40年を迎える。溶融した核燃料のとり出しは大部分を90年に終えたが、核燃料の一部は除去できないまま今日に至っている。チェルノブイリ原発では、1986年の事故後半年かけてコンクリートなどで「石棺」と呼ばれる覆いが建設された。事故後30年の2016年に石棺の老朽化により、それを覆う巨大なシェルターを1700億円かけてEUが建設した。耐用年数は100年以上。炉心には溶けて固まった大量の燃料が放置されている。今後は時間をかけて放射性物質の処理方法を検討するとしており、「処理には100年以上かかるだろう」とされている。
これらに比べ政府と東電の廃炉工程表では、「30年から40年で完了」としている。おもな工程は「使用済み燃料の取り出し」「燃料デブリの取り出し」「汚染水対策」「廃棄物対策」と並べているがいずれも見通しはたっておらず、あまりにも短い想定だ。
公的支援既に8兆円 廃炉も賠償も肩代わり
事故処理の費用については、経済産業省の2013年12月の試算で、総費用は総額11兆円(廃炉2兆円)としていたが、3年後の16年12月の試算では総額約22兆円(廃炉8兆円)に膨らんだ。廃炉の見積もりが一気に四倍になっており、今後も膨らんでいくことは確実だ。
廃炉費用の8兆円については、スリーマイル島での廃炉費用をもとにしているが、同原発では「メルトスルー」は起きておらず、米原子力規制委員会の元幹部は「作業員が原子炉建屋に入れないほどの高度の汚染はスリーマイル島でもなかった」とし、福島第一原発の廃炉費用が8兆円以上に膨らむことを指摘している。
今年3月には民間のシンクタンク「日本経済研究センター」が事故の対応総費用は「35兆~81兆円にのぼる」との試算を公表し、政府試算の甘さを突いている【表②参照】。政府試算との違いは廃炉、汚染水処理と除染・中間貯蔵施設関連の費用だ。
廃炉にあたって最大の難関である核燃料のとり出しと密接に関連した問題として汚染水処理がある。メルトダウンを起こした1~3号機の格納容器は水で冷やし続けており、汚染水は今でも1日に100~150㌧発生し続けている。福島第一原発の敷地内には高さ約10㍍の巨大なタンク約1000基が密集している。1基当りの容量は約1200㌧で、約112万㌧がたまっており、2020年末には敷地内にタンクを置くスペースがほぼなくなり、そのタンクも2023年には満杯になる見通しだ。
原子力規制委員会はトリチウムを含む汚染水を希釈して海洋投棄することを検討しているが、漁業者の猛烈な反対で実行はできていない。
トリチウムは効率的に分別・除去する方法が確立されていないが、試験的に開発された除去方法では、汚染水1㌧当り2000万円との試算がある。それをおこなう場合福島原発の廃炉費用は国の試算よりさらに約20兆円上積みされる。
廃炉作業が進めば進むほど当初想定できなかった事態に直面し、技術的にも費用の面においても想定をこえて問題が積み重なり、それがどこまで膨らんでいくのか現段階では見通せないのが実情だ。その費用をだれが負担するかが問題となる。当然にも事故を起こした東電が負担するべきだというのが国民的な世論だが、そうはなっていない。
東電は種種の公的支援を受けており、これまでに政府がおこなった支援額は8兆円をこえる。東電は2011年5月、福島第一原発事故にともなう資金面での困難を理由として、政府の援助を要請し、政府はこれを受けて同年8月に「原子力損害賠償・廃炉等支援機構法」(機構法)を制定した。同年9月には官民共同出資により、機構法にもとづく認可法人として「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」を設立した。機構法による支援は、原子力事業者の相互扶助によるもので、一般負担金や金融機関からの借り入れ等を原資とする。この場合、一般負担金を電気料金の原価に算入することができる。東電の被災者への損害賠償や廃炉費用については、国からの援助すなわち国民の税金や電気料金で支払うことができるようになっている。
事故直後、会社更生法にもとづいて東電を破綻処理(法的整理)し、減資や債権カットにより株主と債権者にも負担を負わせるべきだとの意見が上がった。今も根強くある。だが政府はこれを拒否し、税金や電気料金など広く国民全体に負担させる方向に動いてきた。
ちなみに東電の役員報酬の推移を見ると以下の通りになっている。
事故前の2009年度は総額8億6200万円(取締役21人に7億2100万円、監査役8人に1億4100万円、社外役員7人に6600万円)。10年度(2011年3月に福島事故発生)は総額8億6400万円で、事故発生にもかかわらず前年度とほぼ同額の役員報酬を手にしている。事故が発生した2010年度から16年度までの7年間に役員報酬の支払い総額は27億3200万円にのぼっている。東電の役員報酬は株主総会で認められるが、現在東電ホールディングスの株主総会で議決権株式の過半数を持っているのは「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」だ。同機構の主務大臣は経済産業大臣・内閣府機構担当であり、実質的には経産省の決定だ。
他方で東電は被害者への賠償を値切り、あるいは切り捨てている。住民の集団申し立てについては和解案をことごとく拒否している。
世界最大の原発事故を起こし、17万人以上の避難者を出すなど、周辺住民から故郷を奪い、家族や生活・生業を奪い、多大な苦難を押しつけた企業が、現段階での試算でさえ80兆円をこえる損害賠償や廃炉費用は国民の税金や電気料金でまかなうことを保証され、しかも誰一人逮捕もされずに役員は多額の報酬を受けとり続けている。
政府も東電も福島原発事故の反省はまったくなく、柏崎刈羽原発再稼働を叫び、福島原発の廃炉に外国人労働者を投入すると公言している。このような恥知らずな国や経営者に原発を運転する資格はない。