元刑事が「警察とヤクザの癒着」を告白するとき 2014.11.30 ニュース
山口組二次団体・弘道会に近い風俗業者に捜査情報を漏らしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反などの罪で起訴されている元愛知県警捜査一課警部の倉木勝典被告(57)の公判が続いている。
倉木被告は13年9月に逮捕され、その後も再逮捕と追起訴が繰り返されたが、一部の容疑は認めながらも「組織に迷惑をかけて申し訳ないが、『ここまでするのか』という気持ちがある」などと明かして注目されていた。2014年11月21日に行われた公判でも、「情報の照会を頼まれたのは風俗業者の代表ではなく、代表と面識のある現職警官からだ」「警察内はまだ暴力団関係者と癒着している人間が多数いるのに、なぜ私だけなのか」などと反論したことを11月22日付の中日新聞が報じた。
ヤクザと警察の癒着などあってはならないことであり、事実とすれば看過できない。
しかし、「(ヤクザと警察の)癒着は組織的なもの。倉木さんが単独で弘道会に接していることは絶対にない」と断言する人物がいる。北海道警察元警部の稲葉圭昭氏だ。
元刑事が「警察とヤクザの癒着」を告白するとき 稲葉氏はかつて道警で「銃器対策のエース」と呼ばれて活躍したが、自身の覚醒剤使用問題で有罪が確定して服役している。その後、「自分と道警の罪に生涯向き合っていく」として、自著『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社)などで道警の違法捜査や裏金問題を告発してきた。
「倉木さんがマル暴(暴力団担当)ではなく、(殺人事件を担当する)捜査一課であることには驚いたけれど、所属がどこであろうとヤクザと接触するうちに親しくなることはあるし、そのような関係は『捜査か、癒着か』と聞かれれば癒着と言うほかはない。警察幹部はそれをわかっていて現場の刑事(デカ)に危ないことをさせており、倉木さんもその犠牲者だと思う。取り調べで相当怒鳴られて、いったんは罪を認めたと報道されていたが、これからは負けずに愛知県警の罪を告発してほしい」とエールを送る。
弘道会は、六代目山口組の司忍組長の出身母体であり、愛知県に本拠を置く有力組織。倉木被告の事件に関連しては、同会関係者が「警察などカネで買える」と話していたことが法廷で証言されるなど波紋を呼んでいる。
「警察は、幹部と現場で考え方がまったく違う。幹部たちは実績を上げられれば何でもいいと考えているが、捜査とはそんなに簡単なものじゃない。特に山口組は一筋縄ではいかないし、現場はヤクザと接しているうちに取り込まれて来たのだと思う。幹部もそれを知っていて放置してきて、最後に倉木さんをスケープゴートにした。もちろん今回の倉木さんの逮捕で終わりにはならない。今後もけっして癒着はなくならないだろう」
そう話す稲葉氏は、今秋に新著『警察と暴力団 癒着の構造』(双葉社)を上梓したばかりだ。「北海道警も愛知県警も、他の県警も構造は変わらない。己の出世しか考えない幹部がいなくならない限り、繰り返される」と断言する。本書では、道警の泳がせ捜査や違法なおとり捜査など「過去の罪」について述べているが、とりわけ130キロの覚醒剤と2トンの大麻を国内に流出させた1999年の「泳がせ捜査」については、告発を続けたいという。
「あれは『捜査』などではなく犯罪だった。実績を作りたい上司と私たち現場の捜査員が犯した罪であり、許されることではない。大量の違法薬物を国内に流出させてしまったことは一生忘れない。また、おとり捜査で罪のないパキスタン人を獄に落としたことも大きな問題だ。この事件は現在、再審請求中であり、進展を見守っていきたい」
こうした「道警の罪」のほか自らが堕ちた覚醒剤の闇や北海道のヤクザのシノギなどについても明かしている。「警察官として四半世紀を過ごしたが、悔いばかりが残る。前著『恥さらし』を書いたのは、自分の気持ちを整理して、いろいろなことに折り合いをつけたいと思ったから。それから3年を経て、自分と道警の罪には一生向き合って行かなくてはという心境になったのが今回の執筆のきっかけ。自分の中では、(警察の問題は)何一つ終わっていない」
警察にとっては頭の痛くなるような話ばかりだが、癒着の解消など警察が「正常化」へと向かえる日は来るのか。注目したい。 <取材・文/糸島望>
【稲葉圭昭氏】
いなば・よしあき 1953年北海道生まれ。東洋大学を卒業後、1976年に北海道警採用。道警本部機動捜査隊員、札幌方面中央警察署刑事第二課暴力犯係主任、道警本部銃器対策室銃器犯罪第二係長などを歴任。暴力団捜査、銃器捜査に力を注ぐ一方で、泳がせ捜査、おとり捜査など道警の違法捜査にも関与したことを自著で明かしている。自らは覚醒剤の使用や密売に手を染める。2002年に覚醒剤使用等の容疑で道警に逮捕され、2003年5月に懲役9年・罰金160万円の刑が確定。公判廷で警察の違法捜査について証言したことで注目を集めた。出所後に上梓した『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社)もベストセラーに。
山口組二次団体・弘道会に近い風俗業者に捜査情報を漏らしたとして、地方公務員法(守秘義務)違反などの罪で起訴されている元愛知県警捜査一課警部の倉木勝典被告(57)の公判が続いている。
倉木被告は13年9月に逮捕され、その後も再逮捕と追起訴が繰り返されたが、一部の容疑は認めながらも「組織に迷惑をかけて申し訳ないが、『ここまでするのか』という気持ちがある」などと明かして注目されていた。2014年11月21日に行われた公判でも、「情報の照会を頼まれたのは風俗業者の代表ではなく、代表と面識のある現職警官からだ」「警察内はまだ暴力団関係者と癒着している人間が多数いるのに、なぜ私だけなのか」などと反論したことを11月22日付の中日新聞が報じた。
ヤクザと警察の癒着などあってはならないことであり、事実とすれば看過できない。
しかし、「(ヤクザと警察の)癒着は組織的なもの。倉木さんが単独で弘道会に接していることは絶対にない」と断言する人物がいる。北海道警察元警部の稲葉圭昭氏だ。
元刑事が「警察とヤクザの癒着」を告白するとき 稲葉氏はかつて道警で「銃器対策のエース」と呼ばれて活躍したが、自身の覚醒剤使用問題で有罪が確定して服役している。その後、「自分と道警の罪に生涯向き合っていく」として、自著『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社)などで道警の違法捜査や裏金問題を告発してきた。
「倉木さんがマル暴(暴力団担当)ではなく、(殺人事件を担当する)捜査一課であることには驚いたけれど、所属がどこであろうとヤクザと接触するうちに親しくなることはあるし、そのような関係は『捜査か、癒着か』と聞かれれば癒着と言うほかはない。警察幹部はそれをわかっていて現場の刑事(デカ)に危ないことをさせており、倉木さんもその犠牲者だと思う。取り調べで相当怒鳴られて、いったんは罪を認めたと報道されていたが、これからは負けずに愛知県警の罪を告発してほしい」とエールを送る。
弘道会は、六代目山口組の司忍組長の出身母体であり、愛知県に本拠を置く有力組織。倉木被告の事件に関連しては、同会関係者が「警察などカネで買える」と話していたことが法廷で証言されるなど波紋を呼んでいる。
「警察は、幹部と現場で考え方がまったく違う。幹部たちは実績を上げられれば何でもいいと考えているが、捜査とはそんなに簡単なものじゃない。特に山口組は一筋縄ではいかないし、現場はヤクザと接しているうちに取り込まれて来たのだと思う。幹部もそれを知っていて放置してきて、最後に倉木さんをスケープゴートにした。もちろん今回の倉木さんの逮捕で終わりにはならない。今後もけっして癒着はなくならないだろう」
そう話す稲葉氏は、今秋に新著『警察と暴力団 癒着の構造』(双葉社)を上梓したばかりだ。「北海道警も愛知県警も、他の県警も構造は変わらない。己の出世しか考えない幹部がいなくならない限り、繰り返される」と断言する。本書では、道警の泳がせ捜査や違法なおとり捜査など「過去の罪」について述べているが、とりわけ130キロの覚醒剤と2トンの大麻を国内に流出させた1999年の「泳がせ捜査」については、告発を続けたいという。
「あれは『捜査』などではなく犯罪だった。実績を作りたい上司と私たち現場の捜査員が犯した罪であり、許されることではない。大量の違法薬物を国内に流出させてしまったことは一生忘れない。また、おとり捜査で罪のないパキスタン人を獄に落としたことも大きな問題だ。この事件は現在、再審請求中であり、進展を見守っていきたい」
こうした「道警の罪」のほか自らが堕ちた覚醒剤の闇や北海道のヤクザのシノギなどについても明かしている。「警察官として四半世紀を過ごしたが、悔いばかりが残る。前著『恥さらし』を書いたのは、自分の気持ちを整理して、いろいろなことに折り合いをつけたいと思ったから。それから3年を経て、自分と道警の罪には一生向き合って行かなくてはという心境になったのが今回の執筆のきっかけ。自分の中では、(警察の問題は)何一つ終わっていない」
警察にとっては頭の痛くなるような話ばかりだが、癒着の解消など警察が「正常化」へと向かえる日は来るのか。注目したい。 <取材・文/糸島望>
【稲葉圭昭氏】
いなば・よしあき 1953年北海道生まれ。東洋大学を卒業後、1976年に北海道警採用。道警本部機動捜査隊員、札幌方面中央警察署刑事第二課暴力犯係主任、道警本部銃器対策室銃器犯罪第二係長などを歴任。暴力団捜査、銃器捜査に力を注ぐ一方で、泳がせ捜査、おとり捜査など道警の違法捜査にも関与したことを自著で明かしている。自らは覚醒剤の使用や密売に手を染める。2002年に覚醒剤使用等の容疑で道警に逮捕され、2003年5月に懲役9年・罰金160万円の刑が確定。公判廷で警察の違法捜査について証言したことで注目を集めた。出所後に上梓した『恥さらし 北海道警 悪徳刑事の告白』(講談社)もベストセラーに。