【アウシュビッツ解放70年 過去をいかに克服するか】
TVでた蔵トップ >> 番組 2015年2月6日放送 0:00 - 0:10 NHK総合 時論公論 出演者 二村伸
人類史上最大の犯罪と言われるホロコースト。ユダヤ人大虐殺の主要な舞台となったアウシュビッツ収容所が解放されてから先週70年の節目を迎えた。現地では生存者や各国首脳が犠牲者を追悼し、悲劇を繰り返さないと誓いを新たにした。しかし、生存者の1人は世界はこの悲劇から何も学んでいないと訴えた。きょうは、アウシュビッツから何も学び、いかに過去を克服するかを考える。現在、各地の収容所は当時のまま保存され何が起きたか後世に語り継がれている。ホロコーストの犠牲者を追悼する式典に、10年前には1500人の元収容者が出席したが、今年は300人にとどまった。そのほとんどが80歳以上のお年寄りである。収容所を生き延びた歴史の証言者が高齢化し、負の遺産をいかに継承するかが大きな課題となっている。世界では、アウシュビッツ解放後も虐殺は無くならなかった。90年台以降も、宗教や民族の対立から虐殺が起こっている。
キーワード アウシュヴィッツ=ビルケナウ強制収容所ホロコーストユダヤ人
過去をどうやって克服するか、ホロコーストの責任を負うドイツの例だと、1970年西ドイツ当時のブラント首相はポーランドを訪れ首都ワルシャワのゲットー(ユダヤ人強制居住区)の跡地で★ひざまずいて献花を行った。1985年には当時のワイツゼッカー大統領が議会演説で「罪があっても★なくても、我々★全員が過去に対する責任を負っている」とした上で、「過去に目を閉ざす者は現在にも★盲目になる」と述べた。ドイツにとって過去の克服なしに近隣諸国との和解と国際社会への復帰は不可能だった。そのためにも、過去を★忘れず★後世に引き継ぐことが重要である。ドイツ国内では収容所以外でも過去を歴史的事実として★残す取り組みが続いている。ユダヤ博物館、ホロコースト記念碑などが設けられ、被害者への保障は21世紀になっても行われた。ドイツのメルケル首相は、アウシュビッツ解放70年にあたって、「人類に対する罪に★時効はない。記憶を後世に伝える責任を恒久的に負っている」と述べている。
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「記憶・責任・未来」基金きおくせきにんみらいききん
Foundation“Remembrance, Responsibility and Future”英語
Stiftung“Erinnerung,Verantwortung und Zukunft”ドイツ語 ナチス政権下で行われたドイツ企業による強制労働被害者らへの補償を行うための基金。2000年設立。国家賠償ではなく、人道的見地による自発的補償として、2001年から2007年までに、東欧はじめ世界のおよそ100か国の約166万人以上の人々に合計44億ユーロ(2007年当時で約7040億円)を支払った。基金は単に補償だけを目的とせず、過去を直視し迫害の記憶と責任を未来に引き継ぐ目的から「記憶・責任・未来」と命名された。基金総額は101億マルク。強制労働は国策的性格が強かったことからドイツ政府が半額を拠出し、残りをナチス政権下で強制労働を行ったフォルクスワーゲン、ジーメンス、バイエルなどの大手企業のほか約6500社が拠出した。補償はポーランド、ウクライナ、ロシア、ベラルーシ、チェコなどにある人道組織を通じて支払われ、ユダヤ人補償請求委員会(JCC:Jewish Claims Conference)や国際移住機関(IOM:International Organization for Migration)が協力した。1人当りの補償額は2560~7670ユーロ。基金は強制労働への補償だけでなく、財産を没収されたユダヤ人への補償や、青少年交流などの未来志向型プロジェクトなどにも使われた。東欧諸国の一部から「補償額はきわめて不十分」などの批判が出たが、同基金の設立は、中国や朝鮮半島から日本への強制連行問題を含め、過去の非人道的・反道義的問題に対する議論に影響を与えた。
ドイツ政府は連邦補償法を軸にナチスによる迫害の被害者へ1060億マルク(約5兆6000億円)などの補償をしたが、強制労働は戦争につきものの行為として補償対象外としてきた。しかし1990年代後半に、アメリカにおいてドイツ企業を相手どった強制労働訴訟が相次いだことから、当時のシュレーダー政権は人道的立場から補償の必要性を認め、2000年に「記憶・責任・未来」財団法を制定し、同基金と基金運営財団を設立した。これには巨額集団訴訟に歯止めをかけるねらいもあり、基金設立に際してドイツ政府とアメリカ政府の間では「こうした訴訟はアメリカの外交的利益に反しており、棄却することが望ましい」との声明を盛り込んだ政府間協定が結ばれた。
過去の非人道的・反道義的問題の処理策としては、同基金による補償のほか、第二次世界大戦中の日系人抑留に対するアメリカ大統領による謝罪と補償(1990)、ユダヤ人迫害に対するフランス大統領の謝罪(1995)、オーストラリア先住民に対する政府の公式謝罪(2008)などがある。[編集部] [参照項目] | 強制労働 | ナチス